2021年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 2 (2021年6月12日)過去問解説

Part2

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のKindle版セット版を制作しました。

公開日 2021年7月7日 最終更新日 2024年1月16日

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。


それでは、設例をお読みください。

2021年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 2 (2021年6月12日)

●設 例●
 Aさん(59歳)は、大都市圏X市に所有する乙マンション(分譲)において、妻と長女との3人で暮らしている。母親Bさん(83歳)は、Aさんの故郷である地方都市Y市の実家(甲土地・甲建物)で1人暮らしをしている。先祖代々の甲土地と築50年の甲建物は、Bさんが5年前の夫(Aさんの父親)の相続により取得したものである。
Bさんの意思能力はしっかりしており、健康そのものであるが、最近、Bさんから「友人の多くが亡くなり、寂しい。愛着はあるけど、1人で大きな家で生活するのは不安を感じる」との相談を受けるようになった。Aさんは、同じくX市内に暮らす弟Cさん(57歳)と交代で、片道3時間をかけて、時々Bさんの様子を見にいっているが、このまま1人暮らしをさせることが心配になってきた。
そこで、AさんがBさんに「甲土地と甲建物を売却し、自分の暮らす乙マンションの同一フロアでたまたま売り出されている物件があるので、これを購入して転居してはどうか」と提案したところ、「心配かけてすまないねえ。Cさえよければ、お願いしようかな」との返事であった。Cさんも「兄貴と同じマンションなら安心だし、賛成だよ」と同意してくれたため、Aさんは実家の売却や買換えのタイミングについて検討している。なお、Bさんの相続に係る推定相続人は、AさんとCさんの2人である。

 

【Bさんの資産および収入の状況】

  • 甲土地:地積700m²(約212坪)、相続税評価額3,600万円
  • 甲建物:木造2階建て、延べ面積165m²(約50坪)、築50年、固定資産税評価額は微少
  • 預貯金:4,000万円、公的年金の収入:月額18万円

 

【地元Y市の信頼できる不動産業者の話】

  • 周辺は住宅地として人気があり、甲土地は建売住宅用素地として4,500万円以上で現状有姿にて売却できる。
  • 売却にあたり、築50年の甲建物は評価されない。

 

【Aさんが暮らす乙マンションの全体の状況】

  • RC造12階建て、築10年、総戸数150戸、最寄駅から徒歩5分
  • 現在売出し中の物件:1LDK(専有面積60m²)、現況空室
    販売価格4,500万円(相続税評価額1,900万円:土地1,000万円、建物900万円)
  • 部屋のタイプは1LDK/2LDK/3LDKがある。自己居住が大半であるが、賃貸されている物件もあり、中古物件の引き合いが多い。

 

(FPへの質問事項)

  1. Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。

     ①Aさんから直接聞いて確認する情報
     ②FPであるあなた自身が調べて確認する情報
  1. 実家を売却し、乙マンションの現在売出し中の物件を購入する場合、買換えのタイミングや2つの売買契約の条件、資金面について、Aさんにどのようなアドバイスをしますか。
  2. 母親Bさんの相続のことを考えると、今回の買換えをした場合としなかった場合とでどのような違いがありますか。相続税と不動産を譲渡した場合の所得税の観点から教えてください。
  3. 本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

 

よろしくお願いします。

  1. Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。
    ①Aさんから直接聞いて確認する情報は、どのようなことがありますか?
 

①Aさんから直接聞いて確認する確認する情報は、
⑴本人しか知らないこと。関係者の意向として
 甲土地、甲建物の取得費や取得日がわかる書類はあるか
 弟Cさんの自宅は賃貸か、
 Aさんや、弟CさんはX市内で母親Bさんと同居することは考えられるか
 母親Bさんと、Aさん、Cさん家族の関係は良好か

 

 ②FPであるあなた自身が調べて確認する情報は、どのようなことですか?

 

②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
 土地・道路や交通量などの物理的状況を実際に現地で確認すること。

⑵権利関係として
 法務局で登記事項証明書や公図を請求し物件の権利状況等を確認すること。

⑶法令上の制限として
 自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し今後の開発予定や周辺環境の変化を把握すること。

⑷市場調査として
 甲土地周辺や乙マンションの取引事例など、地元の不動産等で確認すること。


 
  1. 実家を売却し、乙マンションの現在売出し中の物件を購入する場合、買換えのタイミングや2つの売買契約の条件、資金面について、Aさんにどのようなアドバイスをしますか?
 
 

実家を売却し、乙マンションの物件を購入し、譲渡益が出た場合の特例として、「3,000万円特別控除と10年超所有軽減税率の特例」か「特定居住用財産の買換え特例」が適用できます。

買換えのタイミングは、いずれの特例も、住まなくなって3年目の年末を経過してから売却すると特例の適用ができなくなり、「特定居住用財産の買換え特例」の場合は、2021年12月31日までに実家を譲渡し、その年か翌年末までに乙マンションを取得し、取得年の翌年末までに居住開始する必要があります。

売買契約の条件は、実家を取り壊した場合で特例を適用するには1年以内の売買契約の締結が必要です。

資金面について、住宅購入には住宅ローンを利用するのが一般的ですが、住宅ローンの借入可能な申込時年齢は20歳以上70歳未満に設定されていることが多く、母親Bさんは83歳と高齢なので一括購入か、リバースモーゲージの活用をアドバイスします。

 
  1. リバースモーゲージとはどういった制度ですか?
 
 

リバースモーゲージとは、自宅を担保に自宅に住み続けながら融資を受けることができる、高齢者向けのローンです。

一般的なローンとは返済方法が異なり、元本の返済は契約者の死亡後、または契約期間終了後に担保不動産の売却で返済するか、相続人による一括返済となり存命中は毎月利息のみの返済となります。
月々の返済が利息のみで負担が少なく、契約後も自宅に住み続けられることが特徴です。

留意点は、リバースモーゲージは融資ではあるが、債務者が死亡した後は自宅売却が前提のため家がなくなり、家が相続財産として残りません。
金融機関によっては、使い道が限定されたりマンションは対象外になる場合があります。将来の相続も見据えて、家族の十分な理解を得る必要があります。

 
  1. 母親Bさんの意思能力が心配な場合はどのようにアドバイスしますか?
 
 

母親Bさんは、現在は意思能力もしっかりしており健康そのものですが、83歳と高齢なので財産管理や財産の承継対策として、家族信託の活用をアドバイスします。


 
  1. 母親Bさんの相続のことを考えると、今回の買換えをした場合としなかった場合とでどのような違いがありますか。相続税と不動産を譲渡した場合の所得税の観点から教えてください。
 

母親Bさんに相続が発生し今回の買換えをしなかった場合は、乙土地にかかる相続税に対し、弟Cさんが持ち家を持たず申告期限まで所有するなど一定条件を満たすと、乙土地700㎡のうち330㎡まで80%評価減が可能です。

譲渡した場合は、譲渡収入から取得費と譲渡費用を加えた金額を差し引き、さらに3,000万円特別控除した金額が課税譲渡所得となります。
今回のケースでは10年超所有軽減税率の特例が適用できるので、課税譲渡所得が6,000万円以下の部分は所得税・住民税合わせて14.21%の税率で計算します。

買換えを行なった場合は、乙マンションを同条件で弟Cさんが相続すると小規模宅地の特例が適用できます。
マンションなどの区分所有建物の場合、小規模宅地の特例が適用できるのは敷地利用権だけで区分所有権は特例の対象になりません。
敷地利用権とは、建物と一体化した土地に対する権利のことで、敷地利用権を有する土地330㎡まで80%の評価減が可能です。

譲渡所得に関しては、「3,000万円特別控除と10年超所有軽減税率の特例」か「特定居住用財産の買換え特例」が適用されますが、併用は認められていません。
どちらを利用した方が有利になるか、税理士と連携しアドバイスします。


 
  1. FP業務では色々な専門職業家と連携することもあると思いますが、
    本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
 

不動産の取引に関する課税上の具体的な税務相談は税理士に、
売買契約等における宅地建物取引業法に規定する業務については宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については司法書士に、
地積の更正や変更の登記は土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


マンションの評価方法は、建物の区分所有権ではなく、建物と一体化した土地の敷地利用権が小規模宅地の特例の対象となります。

マンションの敷地の土地面積は、マンション敷地全体を敷地面積に借地権割合を乗じて算出します。
マンションの敷地内に建物に隣接して駐車場や駐輪スペースがある場合、建物が建てられている底地部分の敷地面積だけでなく、駐車場や駐輪場など敷地内にある全てを含めた敷地全体について評価します。

なお、敷地権割合は登記簿謄本に記載されています。


FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。

最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。

最後まで読んでいただきありがとうございました。皆さんのFP1級技能士試験合格を願っています。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
詳しくはこちらをご覧ください

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