2021年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2021年6月12日)過去問解説

Part1

本ページはプロモーションが含まれています

スポンサーリンク



きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のKindle版セット版を制作しました。

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。


それでは、設例をお読みください。

2021年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2021年6月12日)

●設 例●
 Aさん(64歳)は、大都市圏F市に所在する株式会社X社/株式会社Y社の代表取締役社長である。X社は、Y社株式を100%保有しており、将来の事業展開を見据えた効率的なグループ経営を図るため、以前にAさんが100%出資して設立した持株会社である。

 X社には、Y社の間接部門(経営企画部門)を集約しており、主な収入源はY社からの配当金および間接業務の業務委託料である。Aさんは、今後のM&A戦略等を見据え、相応の資金をX社に集中させておきたいと考えている。また、X社株式の対策のために、X社にY社所有の本社兼工場土地および建物を移転することを検討している。

 X社/Y社の専務取締役である長男Cさん(30歳)は、経験不足が否めないが、最近は後継者としての自覚が芽生え、仕事に打ち込んでいる。

 

<X社(持株会社)>
資本金:1,000万円 会社規模:小会社 従業員数:5名
役員構成:代表取締役Aさん/専務取締役長男Cさん
株主構成:Aさん100%
※従業員5名は、Aさんおよび長男Cさんの同族関係者ではない。
※総資産に占めるY社株式の割合は50%以上である。

<Y社(食料品製造業)>
資本金:2,000万円  会社規模:大会社  従業員数:90名
売上高:25億円  経常利益:8,000万円  純資産:6億円
役員構成:代表取締役Aさん/専務取締役長男Cさん
株主構成:X社100%

【Aさん自身の資産承継】
Aさんは、妻Bさんと暮らしている自宅の老朽化が激しいため、建替えを検討しており、長男Cさん家族との同居も考えている。自宅の土地は、先祖代々の土地であるため、長男Cさんに承継させる予定であるが、その際に配偶者居住権を活用できないかと思っている。

 他県に暮らす長女Dさん(40歳)は、住宅ローンと子の教育費の負担が大きく、Aさんに支援を求めている。長女Dさんは、日頃から「会社の資産や不動産はいらないけど、娘として財産の一部をもらう権利はある」と言っている。Aさんは、遺言書を準備する必要性を感じており、自筆証書遺言の保管制度を利用することを検討している。

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)

現預金 2億円 (役員退職金は考慮していない)
X社株式 5億円  
自宅土地 6,000万円 (500㎡)
自宅建物 500万円  
テナントビル土地 8,000万円 (300㎡)
テナントビル建物 1億5,500円 (注)
合計 10億円  


※Aさんの相続に係る相続税額は、約3億6,000万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地の評価減適用前)と見積もられている。
(注)1階にX社が入居し、2階~5階は一般の事業会社に賃貸している。
(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

妻Bさん :専業主婦。Aさんと自宅で同居している。
長男Cさん:X社/Y社専務取締役。妻と子の4人で賃貸マンションに住んでいる。
長女Dさん:パート従業員。会社員の夫と子の4人で夫所有の持家に住んでいる。

 

検討のポイント
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

 

相談内容として

  • 自宅の建て替えに伴う長男Cさんとの同居と、配偶者居住権の活用法を知りたい
  • 自筆証書遺言の保管制度の内容を知りたい
  • X社株式の株価対策をどうするか

問題点は、

  • 納税資金不足が予想されるので、納税資金の準備
  • 相続税が高額になるので相続税の軽減
  • 長男Cさんと長女Dさんとの、円滑な遺産分割を行うための対策が必要です。
 

それでは、今あげた相談内容および問題点を解決するためには、どのような提案・方策が考えられますか?

納税資金の準備と相続税の軽減対策ですが、⑴金庫株の活用、⑵小規模宅地の特例の活用などがあげられます。

それらの方策のなかで、何をAさんに提案しますか?

 

⑴金庫株の活用ですが、通常の自社株買取はみなし配当として総合課税の対象ですが、株式を相続した人が、相続が発生してから3年10ヶ月以内にその株式を発行会社に売却した場合には、本来、総合課税されるところ、20%分離課税となるので税金コストを抑えて譲渡することが可能になります。
今回のケースでは、後継者である長男CさんがX社株式を相続し、その後、X社に株式の一部を買い取ってもらうことで、現金を受け取り納税資金に充てることができます。

 

自宅土地に関して、小規模宅地の特例の活用はどのように提案しますか?

 

一定の条件を満たすことで土地の相続税評価額を、特定居住用は330㎡、事業用は400㎡まで80%軽減され、貸付事業用は200㎡まで50%軽減されます。

 

今回のケースでは、自宅を建て替え長男Cさん家族と同居することを検討していますが、二世帯住宅に立て替えた場合でも、

  • 同じ棟の建物に親と子が住んでいる
  • 建物の敷地の名義がAさんである
  • 長男CさんはAさんに家賃を払っていない
  • 区分所有登記されていない

などの要件を満たすことで自宅土地500㎡のうち330㎡まで80%軽減されます。

 

テナントビル土地に関して、小規模宅地の特例の活用はどのように提案しますか?

建物の用途が違う場合には、建物の用途区分に応じて小規模宅地等の減額を適用していきます。

テナントビルの1階は、X社が入居しているので特定同族会社事業用宅地等として80%の減額対象、2階〜5階は一般の事業会社に賃貸しているので貸付事業用宅地として50%減額の対象になります。
対応関係は1階と2階〜5階の床面積に応じて宅地の面積を按分し、小規模宅地の減額を適用していきます。

貸付事業用宅地と特定居住用や特定事業用宅地とは完全併用できないので、按分計算により限度面積を計算する必要があり、もっとも有利になるように税理士と連携して提案します。


配偶者居住権とはどのような制度ですか?

配偶者が相続開始前から住んでいた被相続人所有の建物は、配偶者がその建物の権利を相続しなくても終身、または一定期間、配偶者に建物の使用を認める制度です。
配偶者居住権の設定をしていないと配偶者が自宅を相続した場合に預貯金の割合が少なくなりますが、配偶者居住権を設定すると、自宅に住み続ける権利である敷地利用権と配偶者居住権付きの敷地所有権とに分けて相続することができ、配偶者も預貯金を得ることが可能になります。
留意する点は、配偶者居住権には登記が必要で譲渡・売却ができません。配偶者が施設に移るなどし自宅に住まなくなった場合も、賃貸として賃料を得ることは可能ですが、自宅を売却して費用を捻出することができません。
子供が複数人いる場合も、例えば所有権を長男にしてしまうと配偶者の相続時に長男が自宅の権利を取得するので兄弟間での遺産分割が不平等になります。

配偶者居住権を設定しても小規模宅地の特例は適用可能ですか?

配偶者居住権を設定しても、通常の宅地と同様に取得した親族が一定の要件を満たせば、小規模宅地の特例は適用可能です。

今回のケースでは、妻Bさんと長男CさんはAさんと同居予定なので、敷地利用権を妻Bさんが取得し、配偶者居住権付きの敷地所有権を長男Cさんが取得することで、小規模宅地の特例とも併用可能です。
ただし、二次相続の際に長男Cさんに自宅の権利が移ってしまうので、長女Dさんが納得できるよう話し合いをすることが必要です。


円滑な遺産分割を行うためにはどのような提案・方策が考えられますか?

遺言書を作成する場合、相続人が争うことのないように遺留分に考慮して作成することが望ましいです。遺言の種類には普通方式として「公正証書遺言」「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があり、一般的には公正証書遺言、自筆証書遺言で作成されます。
代償分割は、所有財産に占める不動産の比率が高い場合などは不動産を相続した人の取得割合が多くなることが考えられます。
今回のケースでは、長男Cさんが後継者として事業を引き継ぐと遺産の多くを長男Cさんが取得するため長女Dさんの遺留分を侵害したり、不満が出る可能性があるので、生命保険の活用や生前贈与により代償分割の準備をすることが必要です。

自筆証書遺言保管制度ついて教えてください。

自筆証書遺言を法務局に保管できる制度で、保管されている遺言書は家庭裁判所の検認が不要になり相続人等の中で誰か一人でも遺言書情報証明書の交付を受けたり、遺言書の閲覧をした場合には、その他の全ての相続人等に対して遺言書が保管されている旨の通知が届きます。
しかし、証人がいないので自筆証書遺言の内容の有効性が争われたり、代理人では保管の申請はできず必ず本人が法務局に出向く必要があるので注意が必要です。


生前贈与の活用はどのように提案しますか?

生前贈与の活用には、歴年贈与、教育資金、結婚・子育て資金贈与、住宅取得資金贈与などがあげられます。
今回のケースでは、長男Cさんが事業を引き継ぐと遺産の多くを長男Cさんが取得するため、長女Dさんの遺留分を侵害したり、不満が出る可能性があるので、教育資金の一括贈与や歴年贈与などを積極的に行うことを提案します。

遺留分の民法特例とはどのような制度ですか?

 

一定範囲内の親族には遺留分によって、最低限の相続財産が保障されているので、相続人が複数存在する場合には、自社株が分散して経営に関わる意思決定に支障をきたすおそれがあります。
遺留分の民法特例を利用することで除外合意や固定合意を実施できます。

除外合意とは、非上場株式を遺留分の計算から除外できる制度で、固定合意とは遺留分の計算に占める自社株の金額を合意時の価額に固定する制度です。
両合意を併用することで、株価の上昇を心配することなく、後継者が株式を取得できるようになります。

 

X社の株価対策が必要なのはどうしてですか? 対策はどのように考えますか?

X社の株価対策が必要なのは、X社は会社規模が小会社なので、総資産に占めるY社株式の割合が50%以上を占めると「株式保有特定会社」として、原則として純資産価額方式により評価されるため、一般の評価会社より株価評価額が高額になるからです。
このようなケースで評価額を引き下げるには、X社を株式保有特定会社としての評価の適用からはずし、原則的評価の適用を可能とした上で、類似業種比準価額、及び純資産価額の評価を低減させることが有効です。

X社を株式保有特定会社としての評価からはずすためには、どのような方策が考えられますか?

X社を株式保有特定会社としての評価からはずすためには、X社が保有するY社の株式を金庫株制度を活用してY社に売却し、X社の総資産に占める株式等の割合を50%未満に引き下げます。

X社は、株式売却資金などで相続税評価額の減額効果が高い、Y社所有の本社兼工場土地や建物を取得することで株式保有特定会社としての評価の適用をはずすことができます。


⒋ 最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。

⑴顧客利益の優先、⑵守秘義務の遵守、⑶顧客に対する説明義務、⑷インフォームドコンセント、⑸コンプライアンスの徹底、⑹FP自身の能力の啓発です。

どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?

今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。
Aさんは、将来の事業展開を見据えたグループ経営を図る意欲的で、事業承継や配偶者居住権、自筆証書遺言の保管制度などにも理解があるものの、ご自身はまだまだ現役という考えもあるかもしれません。
今回のケースでは多岐にわたる専門性の高い知識やスキルが必要で、複雑な内容も多くありますので、ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。

最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。

最後まで読んでいただきありがとうございました。皆さんのFP1級技能士試験合格を願っています。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
詳しくはこちらをご覧ください

スポンサーリンク



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です