2020年度 第3回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2021年2月21日)過去問解説

Part1

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のKindle版セット版を制作しました。

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。


それでは、設例をお読みください。

2020年度 第3回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2021年2月21日)

●設 例●
 Aさん(65歳)は、閑静な住宅街で美容業X店を営む個人事業主である。Aさんは、X店を父親(既に他界)から承継した後、完全予約制のプライベートサロン方式を守り、固定客を中心に年商2,000万円(事業所得900万円)の安定した経営を実現している。美容師の従業員1名のほか、妻Bさん(60歳)には青色事業専従者として経理を担当してもらっている。

 

【X店の事業承継】 Aさんは、大手美容室チェーンで働く長女Cさん(34歳)を後継者として考えている。長女CさんもX店を引き継ぐ想定のもと、効率的な店舗経営による業容拡大やヘアケア商品の販売による多角化等、X店の可能性についてAさんと語り合うことが多くなった。

 Aさんは、先日、金融機関の担当者から「事業承継の際は、個人事業者の事業用資産に係る納税猶予制度を活用してはどうか」とアドバイスされたが、どのような制度なのか、この制度が長女Cさんへの事業承継に適しているのか、理解できていない。

 最近は、経営者仲間の間で法人化の話になることが多く、Aさんは事業承継と併せてX店の法人化も検討したいと思っている。

 また、Aさんは経営者仲間の紹介で借入金(1億円)によるアパート投資(1棟)を積極的に勧められており、副業として始めてみようかと思っている。

 

【Aさん自身の資産承継】
Aさんは、妻Bさんの生活の安定を第一に考えているが、将来的には、事業リスクがある家業を引き継いでもらう長女Cさんに全財産を承継し、大手電機メーカーに勤務する長男Dさん(30歳)には遠慮してほしいと考えている。Aさんは、姉思いの優しい性格である長男Dさんであれば納得してくれるだろうと思っている。

 

【Aさんの家族構成(推定相続人)】
妻Bさん :青色事業専従者。Aさん・長女Cさんと自宅で同居している。
長女Cさん:会社員(美容師)。Aさん夫妻と同居している。
長男Dさん:会社員。妻と子の3人で社宅に居住している。

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)

⒈ 現預金 5,000万円  
⒉ 店舗    
 ①土地 1億5,000万円 (300㎡)
 ②建物 5,000万円 (床面積350㎡)
 ③内装・設備 2,000万円  
⒊ 自宅 7,000万円 (土地:200㎡ 6,000万円、建物:1,000万円)
合計 3億4,000万円  

※Aさんの相続に係る相続税額は、約7,200万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

検討のポイント
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
⒈設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

納税資金不足が予想されるので①納税資金の準備と、相続税が高額になるので相続税の軽減、長女Cさんと長男Dさんとの②円滑な遺産分割、個人版事業承継税制を活用した長女Cさんへの③事業承継対策、X店の法人化の検討と借入金(1億円)によるアパート投資(1棟)の効果を知りたいことです。


⒉それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?

①納税資金の準備と相続税の軽減対策ですが、⑴生命保険の活用、⑵小規模宅地の特例の活用などがあげられます。


⒊それらの方策のなかで、何をAさんに提案しますか?

⑴生命保険の死亡保険金は、相続人が保険金を受け取る場合に限り「500万円 × 法定相続人の人数」が非課税金額となります。
今回のケースでは相続人は、妻Bさん、長女Cさんと長男Dさんの3人ですので500万円 × 3人=1,500万円が非課税となり受け取る死亡保険金から引くことができます。

⑵小規模宅地の特例の活用はどのように提案しますか?

一定の条件を満たすことで土地の相続税評価額を、特定居住用は330㎡、事業用は400㎡まで80%軽減され、貸付事業用は200㎡まで50%軽減されます。

今回のケースでは、長女Cさんが家業を引き継ぐことで、店舗の土地300㎡と自宅の土地200㎡は完全併用可能で80%軽減することができます。


②円滑な遺産分割を行うためにはどのような提案・方策が考えられますか?

②円滑な遺産分割についてですが、⑴遺言書の作成、⑵生前贈与の活用があります。

遺言書の種類と留意点、代償分割について教えてください。

遺言書を作成する場合、相続人が争うことのないように遺留分に考慮して作成することが望ましいです。遺言の種類には普通方式として「公正証書遺言」「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があり、一般的には公正証書遺言、自筆証書遺言で作成されます。
代償分割は、所有財産に占める不動産の比率が高い場合などは不動産を相続した人の取得割合が多くなることが考えられます。
今回のケースでは、長女Cさんが家業を引き継ぐと遺産の多くを長女Cさんが取得するため長男Dさんの遺留分を侵害したり、不満が出る可能性があるので、生命保険の活用や生前贈与により代償分割の準備をすることが必要です。

自筆証書遺言保管制度ついて教えてください。

自筆証書遺言を法務局に保管できる制度で、保管されている遺言書は家庭裁判所の検認が不要になり相続人等の中で誰か一人でも遺言書情報証明書の交付を受けたり、遺言書の閲覧をした場合には、その他の全ての相続人等に対して遺言書が保管されている旨の通知が届きます。
しかし、証人がいないので自筆証書遺言の内容の有効性が争われたり、代理人では保管の申請はできず必ず本人が法務局に出向く必要があるので注意が必要です。

⑵生前贈与の活用はどのように提案しますか?

生前贈与の活用には、歴年贈与、教育資金、結婚・子育て資金贈与、住宅取得資金贈与などがあげられます。
今回のケースでは、長女Cさんが家業を引き継ぐと遺産の多くを長女Cさんが取得するため、長男Dさんの遺留分を侵害したり、不満が出る可能性があるので、教育資金の一括贈与や住宅取得資金贈与、歴年贈与などを積極的に行うことを提案します。


個人版事業承継税制を活用した長女CさんへのX店の③事業承継対策はどのような留意点が考えられますか?

個人版事業承継税制を活用すると長女Cさんへ事業用の資産を引き継ぐ際の相続税や贈与税の納税が猶予されます
留意点は、
・事前に「個人事業承継計画」を都道府県庁へ提出すること。
・承継する事業の特定事業用資産の全てを引き継ぐこと
・「継続届出書」を3年ごとに提出すること
・猶予された税額に見合う担保の提供が必要なこと
・事業を廃止した場合や取得した財産を売却した場合は猶予された税額を納税する必要があります

個人版事業承継税制は、小規模宅地の特例と併用することができないので、個人版事業承継税制とどちらが有利になるか専門家を交えてシミュレーションする必要があります。

さらに、個人版事業承継税制は後継者である長女Cさんのみにメリットがあり他の相続人にはメリットがありません。そのため、長男Dさんのも含めてメリット・デメリットを理解して意思決定することが望ましいと考えます。

X店の法人化はどのようにアドバイスしますか?

法人化を検討する際の判断材料として、所得が900万円を超えるかどうかを基準にします。
所得が900万円を超えると所得税率は33%に対し、法人税率は23.2%で法人税率の方が有利になるからです。

法人化のメリットは、
取引先や金融機関からの信用が高くなること。
所得の分散や損金算入できること。
退職金を経費負担で準備できるので節税効果や社員募集に効果があること。
建物を法人へ賃貸することで、建物は貸家として、土地は貸家建付地として評価され相続税の軽減効果があること。
親族を役員とすることで所得分散効果があること。

デメリットは、
設立時に費用がかかること。
赤字でも税負担が生じること。
事務手続きが煩雑になることです。

Aさんの場合、事業所得が900万で安定しているので法人化を検討するに値しますが、個人版事業承継税制を活用して長女CさんへX店を引き継ぎ、効率的な店舗経営による業容拡大やヘアケア商品の販売による多角化等を検討しているので、長女Cさんへの引き継ぎ後の事業が安定してから法人化を検討してもいいのではと考えます。

借入金(1億円)によるアパート投資(1棟)はどのようにアドバイスしますか?

アパート1棟投資のメリットは、
鉄筋コンクリート構造のマンションより建築費用が安価になり、取得費用に比べて1戸あたりの家賃はあまり変わらないので相対的に利回りが高くなります。
1棟投資だと複数の部屋を所有しているため、空室リスクが分散でき、将来的にはアパートを解体して他の活用方法に転換することも可能です。

デメリットは、
1棟投資は土地と建物の規模が大きくなるため取得費用が高額になります。
稼働率が低くなれば赤字リスクも大きくなり、区分不動産よりも高額になるため売却時も予算の問題で買主が限られる傾向があります。
アパートは木造と鉄骨造がほとんどでマンションよりも耐用年数が短くなります。耐用年数を経過した物件は金融機関の担保評価の指標となるため、融資がつきにくかったり建物の資産価値が大きく下落したりします。
アパート経営には維持管理費用と手間がかかります。大規模修繕時は支出も大きく支出に見合ったリターンがあるかなど判断が必要です。
借入金で不動産投資を始める場合、長期投資が前提となり借入金の返済計画に空室リスク、災害リスク、家賃下落リスクなどに備えられる綿密なキャッシュフロー計画が必要です。

Aさんの場合、手元資金が5,000万円なので、借入金をしてまでアパート投資を行う必要はないものと考えます。
目的が相続対策なのか、資産運用なのかを明確にし、相続対策であれば生命保険の活用や他の方法を検討したり、資産運用であれば不動産投資信託から始めてもいいのではないかと考えます。


最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。

⑴顧客利益の優先、⑵守秘義務の遵守、⑶顧客に対する説明義務、⑷インフォームドコンセント、⑸コンプライアンスの徹底、⑹FP自身の能力の啓発です。

どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?

今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。
Aさんは、家族の幸せも考えつつ、自身も父親から引き継いだ大切なX店を守りたいという思いも強いと思います、ご家族のこと、事業のこと、それぞれに対する対策の効果を納得いただき、ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。

最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。

最後まで読んでいただきありがとうございました。皆さんのFP1級技能士試験合格を願っています。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
詳しくはこちらをご覧ください

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