2020年度 第2回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2020年10月4日)過去問解説

Part1

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のKindle版セット版を制作しました。

公開日 2021年8月28日 最終更新日 2024年2月9日

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。


それでは、設例をお読みください。

2020年度 第2回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2020年10月4日)

●設 例●
 Aさん(55歳)は、大手企業に勤務する会社員である。隣県のX市内の実家で暮らしてい た父親は、持病もなく健康に暮らしていたが、2020年7月に肺がんであることが判明し、それから2カ月余りで84歳で死亡した。Aさんと姉Bさん(58歳)は、持病のある母親Cさん(82歳)の今後の暮らしを心配している。現時点において、母親Cさんの意思能力に問題はないが、以前よりも記憶力や理解力が低下しているのではないかと感じている。

 

【父親の相続手続】
 父親は、遺言書を作成していなかった。Aさんと姉Bさんが父親の相続財産を調べたところ、定期預金・普通預金が複数の銀行に合計で4,000万円あることが判明した。父親は実家に隣接する敷地で賃貸アパートを2棟経営しており、自宅および賃貸アパートの評価額を加 えると、相続財産の合計額は2億円を超える。母親Cさんは、賃貸アパートの経営には関与しておらず、お金に関する全般のことを父親に任せていた。Aさんは、母親Cさんの代わりに、父親の相続手続等に着手しなければならないと考えている。

 

【母親Cさんの資産承継】
 遺産分割協議の場において、Aさんと姉Bさんが母親Cさんの意向を聞いたところ、母親Cさんから「掃除や庭の手入れなど、この家(実家)で1人暮らしをする自信がない。老人ホームに入居したいと思っている。私が亡くなったあとは、この家を処分して構わない。賃貸アパートの経営は私にはわからないので、Aに経営を任せたい。家賃収入を毎月の老人ホームの費用に充てることはできないか」と言われた。母親Cさんが希望する老人ホームの入居一時金は3,500万円、毎月の管理費・食費等は20万円程度のようである。
 Aさんと姉Bさんは、父親の全財産を母親Cさんが相続することに異論はない。ただし、母親Cさんが1人で暮らしながら自宅を管理することは難しく、賃貸アパートの経営を承継できるとは思えない。Aさんは、母親Cさんの希望を叶えるためにどのようにすべきか、整理がついていないが、以前、セミナーで聞いた「家族信託」がうまく活用できないかと思っている。

 

【Aさんの家族構成(推定相続人)】
Aさん:会社員。妻と子2人の4人で持家に住んでいる。
姉Bさん:専業主婦。夫と子2人の4人で夫名義の持家に住んでいる。
母親Cさん:自宅(実家)で1人暮らし。老人ホームへの入居を希望している。

 

【父親の所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)

現預金 4,000万円  
自宅土地(330m²) 6,000万円  
自宅建物(築32年) 500万円  
自宅に隣接する賃貸アパート2棟    
 ①甲アパート   5,000万円 (土地(250㎡)3,000万円、建物2,000万円)
 ②乙アパート 5,000万円 (土地(250㎡)3,000万円、建物2,000万円)
合計 2億500万円  


※父親の相続に係る相続税の総額は、約3,000万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。

 

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

 

検討のポイント
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

 

相談内容として

  • 母親Cさんの希望を叶えるためにはどのようにすべきか
  • 「家族信託」の活用法を知りたい

問題点は、母親Cさんの相続発生時に、

  • 納税資金不足が予想されるので、納税資金の準備
  • 相続税が高額になるので相続税の軽減
  • 円滑な遺産分割を行うための対策が必要です。
 

それでは、今あげた相談内容および問題点を解決するためには、どのような提案・方策が考えられますか?

納税資金の準備と相続税の軽減対策ですが、⑴生命保険の活用、⑵小規模宅地の特例の活用などがあげられます。

それらの方策のなかで、何をAさんに提案しますか?

 

⑴生命保険の死亡保険金は、相続人が保険金を受け取る場合に限り「500万円 × 法定相続人の人数」が非課税金額となります。

 

小規模宅地の特例の活用はどのように提案しますか?

 

一定の条件を満たすことで土地の相続税評価額を、特定居住用は330㎡、事業用は400㎡まで80%軽減され、貸付事業用は200㎡まで50%軽減されます。

 

今回のケースでは、自宅と賃貸アパートに適用できますが、特定居住用と貸付事業用は完全併用することはできないので有利判定が必要です。

配偶者控除等の相続人固有の控除を含め、トータルの納税額が有利になるように税理士と連携してアドバイスします。

 

家族信託とはどういった制度ですか?

 

将来、認知症などで判断能力が低下し、自分で自分の財産管理をできなくなってしまった時に備えて、財産の所有権のうち、管理する権利だけを信頼できる家族に移すことです。

受益権はそのまま所有者に残しておけるので、今回のケースでは、賃貸アパートの管理はAさんに任せて、家賃や売却代金は母親Cが得る形になるので、家賃収入を毎月の老人ホームの費用に充てることができます。

 

認知症対策としては他にどのような制度がありますか?

 

成年後見制度があります。
成年後見制度とは、認知症などにより、判断能力が低下してしまった人に代わってその方の財産管理や、法律行為を行うことができます。後見人は好きな相手に頼むことができますが、公正証書による契約でないと無効です。

後見制度には二種類あり、本人が元気なうちに将来、認知症になった時のために後見人を選んでおくことのできる任意後見制度と、既に判断能力が低下してしまったあとに後見人を家庭裁判所が選ぶ、法定後見制度があり本人の能力に応じて補助、補佐、後見の三段階に分類されます。

 

不動産の売却などは後見人でもできますか?

原則として、できません。
後見人は、財産を守ることが役目であり、財産を運用したり組み替えたりすることが役目ではないので、売却することに合理的な理由があると認められる場合をのぞき、家庭裁判所から許可が降りない可能性が高いからです。


円滑な遺産分割を行うためにはどのような提案・方策が考えられますか?

遺言書を作成する場合、相続人が争うことのないように遺留分に考慮して作成することが望ましいです。遺言の種類には普通方式として「公正証書遺言」「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があり、一般的には公正証書遺言、自筆証書遺言で作成されます。
代償分割は、所有財産に占める不動産の比率が高い場合などは不動産を相続した人の取得割合が多くなることが考えられます。
今回のケースでは、所有財産に占める不動産の割合が高いので、不動産を相続しない人の不満が出る可能性があるので、生命保険の活用や生前贈与により代償分割の準備をすることが必要です。

自筆証書遺言保管制度ついて教えてください。

自筆証書遺言を法務局に保管できる制度で、保管されている遺言書は家庭裁判所の検認が不要になり相続人等の中で誰か一人でも遺言書情報証明書の交付を受けたり、遺言書の閲覧をした場合には、その他の全ての相続人等に対して遺言書が保管されている旨の通知が届きます。
しかし、証人がいないので自筆証書遺言の内容の有効性が争われたり、代理人では保管の申請はできず必ず本人が法務局に出向く必要があるので注意が必要です。


⒋ 最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。

⑴顧客利益の優先、⑵守秘義務の遵守、⑶顧客に対する説明義務、⑷インフォームドコンセント、⑸コンプライアンスの徹底、⑹FP自身の能力の啓発です。

どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?

今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。

健康だった父親が、がんの判明から2ヶ月余りで亡くなられたということで、Aさんご家族、特に母親のCさんは気落ちされていると思います。
そんな状況で老人ホームへの入居など環境の変化があると、母親Cさんの持病の悪化や判断能力の低下が進行しないか心配です。
Aさんはもちろん、ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。

最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。

最後まで読んでいただきありがとうございました。皆さんのFP1級技能士試験合格を願っています。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
詳しくはこちらをご覧ください

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