2019年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定1級実技試験 Part1 (2019年6月15日) 過去問解説

Part1

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のKindle版セット版を制作しました。

公開日 2023年1月22日 最終更新日 2023年2月16日

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。


それでは、設例をお読みください。

2019年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2019年6月15日)

●設 例●
 Aさん(61歳)は、パン・洋菓子X堂を営む個人事業主である。X堂は、Aさんの父親(既に他界)から承継したものである。父親の時代は2~3名の従業員を使用する規模の小さい店であったが、現在は無借金経営を続けながら、年商2億4,000万円/従業員20名を超えるまでの優良店にした。今後は地元百貨店に出店することを計画している。妻Bさん(58歳)は青色事業専従者として給与を受け取っている。

 

【事業承継に関するAさんの意向】

 Aさんは、有名洋菓子店で働く長男Cさん(31歳)を後継者として考えている。長男Cさんは、昨年結婚し、2月に第1子が生まれた。先日、Aさんが長男Cさんに店の事業承継、実家での同居などを相談したところ、長男Cさんから「近い将来、X堂に戻って、店を大きくしたいけれど、今の職場でもう少し経験を積みたいと思っている。同居について、妻は賛成している」と言われ、後継者問題にはめどがついたと安心している。Aさんは、先日、個人事業者の事業用資産に係る納税猶予制度の話を聞いたところであるが、この制度が店の事業承継に活用できるものなのか、よくわからない。

 他方、Aさんは所得税の負担が重いことをかねてから気にしており、所得税対策として法人成りが有効であるという話を聞いたことがある。X堂を法人化したうえで長男Cさんに事業承継したほうがよいのか、検討したいと思っている。

 

【Aさん自身の資産承継に関するAさんの意向】
 妻Bさんの生活の安定を第一に考えているが、将来的には、長男Cさんに全財産を引き継がせたいと思っている。一方、東京都内の大手商社に勤務する二男Dさん(29歳)に財産を 承継させることは不要であると考えている。長男Cさんと二男Dさんは子どもの頃から仲が よく、Aさんは2人の子が遺産分割で揉めることはないと信じている。

 

【Aさんの家族構成】
 妻Bさん (58歳):青色事業専従者。Aさんと自宅で同居している。
 長男Cさん(31歳):会社員。勤務先の借上げ社宅に妻と子の3人で住んでいる。
 二男Dさん(29歳):会社員。独身。東京都内の持家(マンション)に住んでいる。

 

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)

  1. 現預金 8,000万円  
  2. 店舗      
   ①土地(800㎡) 1億5,000万円  
   ②建物(床面積500㎡) 7,000万円  
   ③内装 3,000万円 (簿価)
  3. 自宅土地(500㎡) 9,000万円  
  4. 自宅建物 1,000万円  
  合計 4億3,000万円  

 

※Aさんの相続に係る相続税額は、約1億円(配偶者の税額軽減および小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。

 

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

 

検討のポイント
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

 

相談内容として

  • 個人事業者の事業用資産に係る納税猶予制度が店の事業承継に活用できるものなのか、よくわからない。
  • X堂を法人化したうえで長男Cさんに事業承継したほうがよいのか。

問題点は、

  • 納税資金不足が予想されるので、納税資金の準備。
  • 相続税が高額になるので相続税の軽減。
  • 円滑な遺産分割を行うための対策が必要です。
 

それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?

個人事業者の事業用資産に係る、納税猶予制度について教えてください。
X堂の事業承継に活用できますか?

個人事業者の後継者が、事業用資産を贈与または相続などで取得した場合に、一定の要件のもとで贈与税や相続税が猶予される制度です。

Aさんは、青色申告事業者なのでX堂の事業承継に活用できます。

留意点を教えてください。

留意点は、
・事前に「個人事業承継計画」を都道府県庁へ提出すること。
・承継する事業の特定事業用資産の全てを引き継ぐこと
・「継続届出書」を3年ごとに提出すること
・猶予された税額に見合う担保の提供が必要なこと
・事業を廃止した場合や取得した財産を売却した場合は猶予された税額を納税する必要があります

特定事業用資産とは、どういったものですか?

贈与または相続などが起こった日の、前年における青色申告書の貸借対照表に計上されていたものです。
400㎡までの宅地や、床面積800㎡までの建物、建物以外の減価償却資産の場合は、固定資産税の課税対象とされている資産などです。

小規模宅地の特例との併用はできますか?

個人版事業承継税制は、小規模宅地の特例と併用することができないので、個人版事業承継税制とどちらが有利になるか専門家を交えてシミュレーションする必要があります。

さらに、個人版事業承継税制は、後継者である長男Cさんのみにメリットがあり、他の相続人にはメリットがありません。そのため、二男Dさんも含めて、メリット・デメリットを理解して意思決定することが望ましいと考えます。


X堂を法人化したうえで、長男Cさんに事業承継したほうが良いですか?

個人版事業承継税制を活用して長男CさんへX堂を引き継ぎ、引き継ぎ後の事業が安定してから、法人化を検討してもいいのではないかと思います。

どうしてですか?

Aさんの場合、年商2億4千万円あり、従業員も20名位以上と事業も安定しているので、法人化を検討するに値します。

個人版事業承継税制の納税猶予適用から、5年経過後に特例事業用資産の全てを現物出資して、会社を設立し、その会社の株式等を保有し続ける間は、引き続き納税猶予が認められるからです。

X堂を法人化するメリットを教えてください。

法人化のメリットは、
取引先や金融機関からの信用が高くなること。
所得の分散や損金算入できること。
退職金を経費負担で準備できるので節税効果や社員募集に効果があること。
建物を法人へ賃貸することで、建物は貸家として、土地は貸家建付地として評価され相続税の軽減効果があること。
親族を役員とすることで所得分散効果があることです。

X堂を法人化するデメリットを教えてください。

デメリットは、
設立時に費用がかかること。
赤字でも税負担が生じること。
事務手続きが煩雑になることです。


Aさんは、二男Dさんに財産を 承継させることは不要であると考えていますが、2人の子供が遺産分割で揉めることはありませんか?

長男Cさんと二男Dさんは子どもの頃から仲が良いものの、遺産の多くを長男Cさんが相続するとなると、遺産分割で揉める可能性はあります。

揉めないためには、どうしたらいいと思いますか?

遺言書を作成すること。
生前贈与を積極的に行うこと。
X堂法人化後に賃貸する形を取り、家賃収入を代償金とした代償分割を提案します。


⒋ 最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。

⑴顧客利益の優先、⑵守秘義務の遵守、⑶顧客に対する説明義務、⑷インフォームドコンセント、⑸コンプライアンスの徹底、⑹FP自身の能力の啓発です。

どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?

今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。

事業承継対策や、法人成りなど、一つ一つ制度の内容や適用効果を説明することだけでなく、ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回は、個人版事業承継税制に関する設例でした。

事業承継税制や、法人成りなどはPart1では定番の問題だと思います。

適用要件や、メリットデメリットを整理して説明できるようにしましょう。

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。

最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
詳しくはこちらをご覧ください

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