2019年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定1級実技試験 Part1 (2019年6月9日) 過去問解説

Part1

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のKindle版セット版を制作しました。

公開日 2023年1月22日 最終更新日 2024年1月9日

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。


それでは、設例をお読みください。

2019年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2019年6月9日)

●設 例●
 Aさん(75歳)は、K市において個人で不動産賃貸業を営んでおり、毎年の不動産所得の金額は2,000万円を超えている。Aさんは、健康状態は良好であるが、最近足腰が弱くなったと感じており、自身の年齢のことを考えると、自分の相続について心配している。

 

【Aさんの資産承継に関する意向】

 Aさんは、5年前に新築した二世帯住宅の1階に妻Bさん(70歳)および長女Cさん(47歳)と同居し、2階にはK市役所に勤務する長男Dさん(45歳)家族が住んでいる。東京都内の企業に勤務する二男Eさん(40歳)は、妻と子2人で東京都内の賃貸マンションに居住しており、K市に戻る予定はないと思われる。

 長女Cさんは、地元企業に勤める傍ら、Aさんの不動産賃貸業を手伝っている。Aさんは不動産賃貸業に係る資産(賃貸マンション・駐車場)を長女Cさんに相続させ、独身である長女Cさんの生活を安定させたいと考えている。

 二男Eさんは、今後の教育費の負担や将来にわたる住宅ローンの返済等を考え、住宅購入をためらっているようである。Aさんは、地元に戻らない二男EさんにK市内の不動産を相続させる必要性は感じておらず、多少の資金援助をしてやればよいと考えている。

 妻Bさんには、自宅(二世帯住宅)を相続させ、長女Cさんおよび長男Dさん家族と穏やかに暮らしてもらいたいと思っている。

 Aさんは、長男Dさんには妻Bさんの相続(二次相続)において自宅(二世帯住宅)が相続されることになると思っているため、Aさん自身の相続(一次相続)において、長男Dさんに自宅(二世帯住宅)を相続させる必要はないと考えている。

 また、3人の子(長女C・長男D・二男E)はそれぞれの家族と旅行をするなど、関係は非常に良好であり、Aさんは3人の子が遺産分割で揉めることを想像することができない。

 なお、Aさんの相続に係る相続税の総額は、約1億9,000万円(配偶者の税額軽減および小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。

 

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)

  1. 現預金 8,000万円  
  2. X社株式(非上場) 8,000万円 (※)
  3. 自宅(二世帯住宅)      
   ①土地(450㎡) 1億2,000万円  
   ②建物 7,000万円  
  4. 賃貸マンション      
   ①土地(400㎡) 1億3,000万円  
   ②建物(30戸) 1億円  
  5. 月極駐車場(400㎡) 1億円 (アスファルト敷き)
  合計 6億8,000万円  

 

※X社はAさんの弟が設立した会社である。同社株式の発行済株式総数は10万株で、Aさんの弟が9万株、Aさんが1万株を所有しており、X社からはAさんが所有する1万株を8,000万円(税務上適正)で買い取りたいとの提案を受けている。

 

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

 

検討のポイント
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

 

問題点は、

  • 不動産所得の金額が、2,000万円を超えているので、所得税対策が必要なこと。
  • Aさん自身の相続において、長男Dさんに自宅を相続させる必要はないと考えていること。
  • X社株式の売却方法の検討。
  • 納税資金不足が予想されるので、納税資金の準備。
  • 相続税が高額になるので相続税の軽減。
  • 円滑な遺産分割を行うための対策が必要です。
 

それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?

不動産所得の金額が高額になっている件ですが、どのような方策が考えられますか?

不動産賃貸業の法人化を前向きに検討するように提案します。

一般的には、個人の合計所得が概ね1,000万円を超える場合、法人化した方が節税になるとされています。
Aさんの場合は、年間約2,000万円の不動産所得を得ているので、法人化を前向きに検討するようにアドバイスします。

不動産賃貸業を法人化する場合のメリットを教えてください。

法人化によるメリットは、
税負担を軽減できること。
不動産に限らず法人の事業活動において支出されているものであれば、全て経費に認められること。
青色申告であれば、赤字を10年間繰り越せること。
相続時に分割がしやすくなること、
家族を役員などにして不動産所得を役員報酬という形で家族に分散することができるので相続税額の軽減効果があります。

税負担の軽減とはどういうことですか?

税負担の軽減とは、個人診療所の税率は、所得税と住民税を合わせて最大で55%にまでなってしまいますが、個人で得ていた収入を法人に分散することで、法人課税に切り替わり、最高税率が下がるため節税効果が見込めます。

ただし、法人を設立してまで個人の所得税を引き下げる効果があるかどうかは、個人の所得規模によりますので慎重に判断が必要です。

今回のケースの場合は、毎年の不動産所得の金額は2,000万円を超えている。とあるので、法人化することで税負担の軽減効果を期待できます。

不動産賃貸業を法人化する場合のデメリットを教えてください。

デメリットは、
事業が赤字の場合でも税金がかかること。
法人設立時や、事務手続きが煩雑になるので専門家に依頼すると費用がかかることです。


Aさんは、長男Dさんには妻Bさんの相続において、自宅が相続されることになると思っているため、Aさん自身の相続において、長男Dさんに自宅を相続させる必要はないと考えていますが、問題はありませんか?

Aさんの相続発生時に、妻Bさんが自宅を相続しても、Bさんの相続発生時には、長女Cさんと、二男Eさんにも相続権が発生するため、必ずしも長男Dさんに自宅が相続されるとはかぎりません。

長男Dさんが自宅を相続するには、どのような方策が考えられますか?

Aさんの相続発生時に、自宅を長男Dさんに相続させ、妻Bさんには、配偶者居住権を設定することで、自宅に住み続ける権利である敷地利用権と配偶者居住権付きの敷地所有権とに分けて相続することができます。

配偶者居住権の留意点を教えてください。

留意する点は、配偶者居住権には登記が必要で譲渡・売却ができません。配偶者が施設に移るなどし自宅に住まなくなった場合も、賃貸として賃料を得ることは可能ですが、自宅を売却して費用を捻出することができません。
子供が複数人いる場合も、例えば所有権を長男にしてしまうと配偶者の相続時に長男が自宅の権利を取得するので兄弟間での遺産分割が不平等になります。

配偶者居住権を設定しても小規模宅地の特例は適用可能ですか?

配偶者居住権を設定しても、通常の宅地と同様に取得した親族が一定の要件を満たせば、小規模宅地の特例は適用可能です。

今回のケースでは、妻Bさんと長男DさんはAさんと同居しているので、敷地利用権を妻Bさんが取得し、配偶者居住権付きの敷地所有権を長男Dさんが取得することで、小規模宅地の特例とも併用可能です。
ただし、二次相続の際に長男Dさんに自宅の権利が移ってしまうので、他の相続人が納得できるよう話し合いをすることが必要です。


Aさんは、地元に戻らない二男EさんにK市内の不動産を相続させる必要性は感じておらず、多少の資金援助をしてやればよいと考えていますが問題ありませか?

現在は、兄弟の関係は良好ですが、長女Cさんが不動産賃貸業を承継すると、遺産の多くを長女Cさんが取得するため、他の相続人の遺留分を侵害したり、不満が出る可能性があります。

二男Eさんの不満が出ないようにするためには、どのような方策が考えられますか?

二男Eさんは、今後の教育費の負担や将来にわたる住宅ローンの返済等を考え、住宅購入をためらっているようなので、教育資金の非課税特例や、住宅取得資金等贈与などを活用し、積極的に二男Eさんへの生前贈与を検討します。


X社の株式に関して、Aさんにどのようなアドバイスをしますか?

X社に金庫株として、買い取ってもらうことを提案します。

金庫株とはどういった制度ですか?

金庫株とは、会社自身が発行した株式を買い戻して保有している状態です。

金庫株の活用で留意する点は、剰余金の分配可能額を確認する必要があります。
剰余金の分配可能額とは累積されてきた税引後利益の合算ですが、この範囲でしか金庫株の買取はできません。
実際に金庫株を買い取る際には現金が必要になるので、会社のキャッシュフローに悪影響が出るかもしれないので、適切なタイミングに注意が必要です。

適切なタイミングとは、どのようなタイミングが考えられますか?

Aさんの相続発生後に、金庫株として買い取ってもらうことが考えられます。

通常、個人所有の非上場株式は譲渡先が法人の場合、譲渡価格と譲渡した株式に対応する資本金等の差額が、みなし配当となり総合課税となります。
ただし、相続により株式を取得した場合、みなし配当課税は適用されず、譲渡所得課税で20.315%の課税となります。
さらに、譲渡所得の取得費加算の特例も受けることができます。

Aさんの相続発生後であれば、相続で取得した株式をX社に買い取ってもらい、納税資金にあてることもできます。


⒋ 最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。

⑴顧客利益の優先、⑵守秘義務の遵守、⑶顧客に対する説明義務、⑷インフォームドコンセント、⑸コンプライアンスの徹底、⑹FP自身の能力の啓発です。

どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?

今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。

Aさんは75歳と高齢でもあり、遺産分割で揉めることはないと思っています。
なので、現状の問題点や解決策等をご家族と一緒に、丁寧に説明を行い、理解度を確認し、必ず同意を得て提案することを重視します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回は、不動産賃貸業の法人化や、配偶者居住権に関する設例でした。

法人成りや配偶者居住権、生前贈与の各種非課税制度などは定番の質問なので、制度の概要はもちろんですが、それぞれ併用できるのか、期限や金額など要件が違うところを覚えておくとさそうですね。

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。

最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
詳しくはこちらをご覧ください

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